樺沢紫苑著「不滅の刃 消えた父親はどこへ」読書感想
【昔は映画見るの好きだったのに】
樺沢氏と同じく、私も映画好き。特に中学から20代前半までは、レンタルビデオで映画をレンタルして、ヒットした映画はまあまあ見ていた方だと思う。特に、スターウォーズ、スタローン、シュワちゃんをはじめに、西部劇「シェーン」、アルパチーノのセントオブウーマン、タイタニック、シックスセンス、レオン、マイライフアズアドッグ、トレインスポッティング、チャップリン、ファイトクラブなど、幅広いジャンルを見ていた。その頃は、文豪の小説などもたくさん読んだりしていて、何となく感受性が豊かな気がしていた。理想と現実のギャップに苦しみちょっと世間からズレていた、大人になり切れない青春だったけど(笑)。30代位から、昔のように、映画を見ても心が揺れない、感情移入が出来なくなってきた。仕事や結婚、子育てに追われて、ゆっくり集中して映画を見る時間もなくなったせいかな、本を読んでも、仕事の研修を受けても、心が揺さぶられることはほとんどなかった。
【映画を深く見るコツ】
あるきっかけがあり、樺沢氏のネット投稿や著書に触れ、アウトプットをするようになってからは、再び感受性が豊かになり、本を読んでも奥の著者の意図などを理解しようとしながら文章を読むようになった。読みたい本の情報もどんどん集まるようになり、ホームラン本と出合う確率が高くなった。AmazonのAIに頼るところも大きいが…。
そこで、今回「父滅の刃」に出会った。
この本は、「映画で描かれている世界」を心理学的に考察し、父性・母性を通してストーリーを考察していくというもの。このような切り口で映画の評論をするとは新鮮。まず映画とは、映像・セリフを通して、作者が視聴者に何かを訴える媒体のこと。世論の動向を誘導し、ステレオタイプを作る媒体にもなる。興行収入が目的なので、世の中の多くの人が見たいと思っていることが描かれている媒体とみることができる。ストーリーは、退屈な日常を描いたものなんかはヒットするはずはないから、主人公が成長するストーリーあるいは喜劇、悲劇が描かれるのが常套だ。
その中でも、多く描かれているのが、「父親殺し」と「エディプスコンプレックス」だと樺沢氏は言っている。「父親殺し」とは、父親(ドラゴンやモンスター)を退治して成長するあるいは、父親に反抗し、そこで生まれたわだかまりを「和解」する、折り合いをつけるというストーリー。また「エディプスコンプレックス」とは、母親の愛を独占したいという気持ちから、父親に対して敵意を持つ。「母親を恋愛対象にする心性(マザコン)」やがて父親と対決し、父親を倒すことで、父親を乗り越え、成長するというストーリー。
また樺沢氏は、「父性」というものを意識して映画を見ているとのこと。「父性原理」とは「断ち切ること(叱る・厳しさ)」。「母性原理」とは「包み込むこと(優しさ)」。このような視点で映画をみると、あらためて映画の面白さに気付くのかもしれない。製作者がストーリーを通して観客に伝えたかった本当のメッセージ、社会に問いたかった本当のメッセージが伝わってくるのだと気づいた。
僕が10代・20代の頃に見ていた映画は当たり前の父性・父性の敗北・父性探しが描かれた映画だった。外国映画では、強いアメリカや女性の台頭から複雑化する社会、アメリカvsソ連、アメリカvsアラブ世界が描かれた作品が多かった気がする。一方日本映画は、ジブリ映画やテレビアニメでも家族を描いた作品が多かった。それが、昨今「アナ雪」「実写版アラジン」などで、男性が頼りなく描かれる(男性不要・男性蔑視)映画が増えてきたと樺沢氏は、警告を鳴らしている。僕が、映画を楽しめなくなっていた原因は、この辺にも関係するのかなーと、「父滅の刃」を読んでいて思った。昔のような強い父性や家族を描いていたのでは、現実社会にそぐわない、時代が反映されずヒットしないのだ。時代の雰囲気にマッチし、世間に注目してみてもらうために、制作側は、その時代背景を読み解きながら、綿密に映画製作がされているため、映画は現実社会を色濃く反映しているはず。そんな現実社会に、僕はついていけていないのかもしれない。
そういえば、「君の名は」では、瀧君が最後に頑張って三葉と結ばれ、成長した姿がカッコ良かった。つまり、今という時代は、若者や子供が自分で人生を切り抜けていく映画が、求められているんじゃないかと腑に落ちた。「天気の子」では、「父性不在」の世の中で、自力で切り抜けていく少年少女が描かれていた。父性不在をキーワードに、こうした映画を見てみると、映画鑑賞を本当に楽しめるのかーっと納得した。
【父性不在の今、私のような中年は、どうあるべきなのだろう】
「父滅の刃 消えた父親はどこへ」から、「父親」になるためのヒントが書かれていたので忘れないように記しておく。
ヒント①
【ジブリの宮崎駿が息子が初監督をするときに見せていた姿を樺沢氏が表現した文章】
悩んでいる。もがいている。苦しんでいる。そういう状態は、人が成長している瞬間です。だから、「見守る」ことで人は成長します。あれこれ手出しをすると、いつまでも一人ではなにもかもできないまま。成長できなくなるのです。「見守る」勇気。苦しんでいる当事者もつらいが、「見守る」方もつらい。「見守る」勇気と人に任せる大切さを、このドキュメンタリーから改めて学びました。
「一切手助けをしない」=「見守り」。そこにあるのは、間違いなく「愛情」。これこそが「父性愛」ではないでしょうか?
子供がコケても(失敗しても)、いちいち手を差し伸べずに、見守り続ける。子供が一人で立ち上がる力を自分で獲得しようとしているのに、それを摘み取らないでほしいのです。
ヒント②
【「ベオウルフ」の物語の骨子は「父親殺し」】
子供は「父親殺し」をして大人になる。つまり、「子供が父親を殺しに行く」ことは、子供が大人になるための通過儀礼であり、成長のためには「必須」の行為なのです。
ヒント③
【「理由なき反抗」で描かれた3人の父親(規範を示せない父親・非常に権威的な父親・父親不在)】
「父性」というのは、言うなれば「灯台」のようなものです。「灯台」の光を見ながら、自分の位置を確認し、船は航海します。灯台の光が弱すぎたり、見えなかったりすると、どこを航行しているのかわからなくなり、目標を失って難破や座礁してしまうことになります。「父性」とは、「父親的な力強さを持った存在」であり、「自分の目標や敬意の対象となる存在」、「そうなりたいという存在」です。そうした「父親」との関わりを通して、社会に船出するための目標を定めることができるようになるわけです。父性とは、子供を社会に引っ張り出すもの。子供に「明確なビジョン」を示すことが求められているのです。樺沢氏には二人のメンターがいて、一人は映画評論家の萩原弘さん(柔らかな語り口で映画の深い部分をわかりやすく伝えることの大切さ)ともう一人は小説家の栗本薫さん(小説を読む楽しさ、文章を書く楽しさ、情熱的で前向きな執筆態度)です。樺沢氏は栗本薫さんと仕事をされた編集者さんと一緒に仕事をしたとのこと。栗本さんと仕事をされていた編集者さんと一緒に仕事が出来るようになったということは、メンターの足元くらいには近づけたのではないかということで、非常に感慨深いと書いている。こころから尊敬できるメンターを持つことができれば、それは私たちにとって進むべき方向を示してくれる「灯台」となるはずです。敬意をもっている人、尊敬できる人が私たちの周りにいないか、もう一度探してみることも必要でしょう。
ヒント④
【クレイマー、クレイマーの父親と子供の関係性を深めるヒント】
・真剣に、そして全力で子供と関わる
・できるだけ、たくさんの時間を一緒に過ごす
・一緒にご飯を食べる
・共同作業をする
本当の夫(父親)でなくても、子供の遊び相手になるような男性が、ときどき家に遊びに来てくれるようにするだけでも、父親不在によって生じる子供の精神的不安定さを、かなり軽減できるはずです。また父性は男性のみが担うものではなく、また母性は女性のみが担うものではありません。親は、父性、母性のバランスを考え子供と接していくことが大切だと思います。
ヒント⑤
【サマーウォーズで祖母栄の遺言】
「家族同士、手を離さぬように、人生に負けないように。もし辛い時や苦しい時があっても、いつもと変わらず、みんな揃ってご飯を食べること」
家族で食事を共にし、子供と過ごす時間を大切にしながら交流を増やす。家族で食卓を囲み、家族全員で同じものを食べることで、人間関係は蜜なものへと変化してしまいます。家族関係が崩壊する最初の一歩は、家族で食卓を囲めなくなる、ということです。
ヒント⑥
【父親との和解】
もしあなたが父親との遺恨や確執を抱えていて、あなたの父親がまだ生きているのであれば、すぐにでも「和解」すべきだと思います。「和解」という言葉に抵抗があるのなら、父に会いに行く。帰省する回数を増やし、コミュニケーションの回数、時間を増やす。結果として、それが意識せずとも、「和解」につながっていくはずです。自己成長と「父親」の問題を乗り越えることは、どこかで繋がっているようです。「家族」との良好な関係があっての幸せ。私たちが帰る場所は、最終的に家族、家庭しかないのです。「家庭」から父性原理の「断ち切る」チカラによって社会へ船出させられた我々。時々は母港(実家)に帰り、燃料や物資(心のエネルギー)を補給しなければいけません。家族とは、書け外のない存在。家庭は、私たちが帰る場所なのです。
ヒント⑦
【「家族主義」を経営に取り入れて、成功しているアメリカ企業】
日本では、責任を取らされることをおそれ、イエスマンばかりで、自分の意見を言わない。リスクの伴う新規事業に消極的な、ことなかれ主義のビジネスマン。そして、強いリーダーシップを発揮できるトップが不在の企業。家庭での父親不在。「パパ」という友達化した父親。「草食系男子、肉食系女子」に象徴される男子の軟弱化。
一方、アメリカでは、一昔前の権威的な父親像とは異なり、フランクでフレンドリーでありながら信頼、尊敬される、新しいリーダーが存在する。そんな社長がいる企業が「家族主義」を掲げて成功している。その企業は、「従業員」を「家族」の一員として扱う。そうすることで従業員同士が互いに打ち解け、ひいては人間関係が強固になり、仕事もより楽しくなる。「従業員の家族」も大切にし、支援する努力を怠りません。
・全ての人にわかる形で会社のビジョンを示す
・仕事の責任を社員一人ひとりにゆだねる
・家族のような温かさのある楽しい密な交流を重視する
【理想の父親】
「Good Father」とは、適度な「強い父性」と「個性」を持つもの。子供やきちんと対峙(向き合う)し、コミュニケーションを取り、信頼される人。
その要件としての4つの条件。
①規範を示している。有言実行で約束は必ず守る。
②尊敬、信頼されている。
③「凄い」「そうなりたい」と思われている「夢」を共有し、一緒に実現したいと思っている。
④ビジョン、理念を示している。
大きな危機を乗り越えるためには、リーダーシップや父性が必要となります。
家庭、会社、学校、様々なコミュニティにおいて、理念、ビジョン、規範を示す存在が、今後も必要であることは間違いありません。
家庭の中では、
①きちんと妻と子供と対峙する。
②妻と子供との共同作業、共同体験で、「苦しい」も「楽しい」も共有する。
③自分が一生懸命、頑張っているところを子供に見せる。
④子供と出来るだけたくさんの時間を過ごす。
【おわりに】
「父性の消滅」と「女性の活躍」が描かれることの多くなった昨今のアメリカの映画。私たちは、失われつつある父性を、再び再構築していかなければならない。
私は、経済的に自立し、両親と対峙し、家族といい感じで交流して、厳しくもやさしい親になり、家族力を強くしていけるようにしたい。そして、人と社会の橋渡しが出来るような仕事をして、様々な人と関わっていきたい。これからは、一人ひとりが自立しなければならない時代。守ってくれるものは、自分しかいない。自分の実力しかないのだ。そのためにも自分の健康は自分で守るしかない。自分で情報を集め、何が正しいかを自分で判断するしかない。そして、自分で決断し、自分で行動するしかない。自分で道を切り開いて生きていくんだ。